ずぼん イグニッション






 深呼吸する。10まで数えたら絶対言ってやる。1、2、3、4、5、ろーく、なーな、はーち、きゅ…、いや、21までにしようかな。今は21世紀なんだし。1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、じゅーはち、じゅーきゅう、にーじゅ…やっぱり10まで!キリが悪いのは縁起が悪い。それで、カウントし終わったら絶対言ってやる。簡単だろ?one, two, three, four, five, six, seven, eight, nine…


 「ああ!もう!」


 思わず癇癪を起こしてしまった。うっ、リアラがオレを不審そうに見てる。そりゃそうだ。突然奇声をあげられたらびっくりするさ。
 いいか、こんなことはどうってことないことなんだ。もう一度。1、2、3、4、5、6、7、8、9…それ行けオレ!
 だめだ。オレはいったい何を待っているんだ?これから何をしようとしているんだ?それで何がどうなるんだ?どうってことないさ、そうだそうだ。どうってことない。まあリアラはオレをぶっ飛ばすかもな。そう必死になるなってば。いつだって自分の意思は曲げなかっただろ。こんならしくないことはやめようぜ。
 でもさ、もしかしたら、リアラはオレから言い出してくれればいいなって、死ぬほど望んでたりして…じゃあオレ言ってやんない。お前が言えばいいじゃんか。


 「……」


 ああ!もう!やっぱオレが言う!!one, two, three, four, five, six, seven, eight, nine…
 言わなかった。マジで。いつまでこの想いを温めていようと思ってるんだ。そこらへん飛んでるトリは長くても二十日だぜ?
 透明な笛を取り出す。一曲吹いて聞かせてやって、ムードを盛り上げて、ついでにオレの心臓も落ち着かせて、それでリアラに言ってやるんだ。ほらリラックスしてきた。この曲を吹き終わったらすぐ言う。言っちゃう。あっやっぱり次の曲で…次の曲が終わったら言うから…。


 「あのさ」
 「いい曲だったよ」
 「あ、ありがと」


 だめだ。言えない。顔が火照ってないかな。まあ背中合わせだからわかるはずないか。でも心臓がすんげーばくばくいってんのは感じてるのかも…うわあああ恥ずかしい。恥ずかしい。
 だいたいオレとお前がこうやって二人きりで良い子になって静かーにしているんだから、リアラはオレが何言い出そうとしてるか、ちゃーんと知ってるはずなんだよな。そう、リアラは待ってるんだよ。どうせ心の中ではオレのこと必死だなってあざ笑ってるんだ。
 へっ、それが何だっていうんだ。どうでもいいよ。オレ、リアラのこと好きでもなんでもないし!化粧濃いしファザコンだし、最低だ。こんなやつ好きになるやつなんかいなくね?いないって…うん。


 「リアラ」
 「うん?」


 1、2、3、4、えー、仕切りなおしだ。だって今回は本気だから。絶対言ってやるぜ。1、2、3、しー、ごおー、ろーく、しー…ち、なあーな…、はー…ち、きゅー…ああああできないできない!こうやっていつまでも背中合わせでもじもじしてるなんて、オレってなんて気色悪いんだろう!
 向き直る。骨ばった手を握る。リアラが首をひねる。目が合う。コバルトブルーがじっと見つめてる。もう逃げられない。逃げられないし逃げない。よし、one, two, three, four, five, six, seven, …えっなに、オレ言えてね?言えてるじゃん。信じられないぜ!やっぱ最強だな、オレ。リアラ、こっちから言ってやったこと、感謝しろよな。









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