ずぼん Confused Heart(訳)






 それはとてもシンプルだった。


 まず、お前がオレらみたいに特別で、様々な感情を感じることができるのか知らなければならなかった。オレたちはそれを知るために、いくらかの時間をかけて計画を立てた。うん、お前はオレたちの小さなモルモットだった。そしてついにオレらはものすごいプランにたどり着いた。身震いしてるか?まあそうだろうな。


 計画はかなり基本的なものだった。お前を普通じゃない状況におき、どんな反応をするかみる。もしお前の反応がみられたら、オレらはお前を、普通で平均的なナイトメアンか、僅かに違うほうのどちらかに分類するつもりでいた。


 だが少し問題があった。お前は疑い深かった。お前はいつもオレに質問し、何故オレが突然兄と友達になったのか、何故オレは常に奴と共にいて、奴みたいなイかれたナイトメアンと時間をムダにしているのか知りたがった。オレは知ってるぜ、お前の心の底にあったものを、お前は嫉妬してたんだ。否定しようとするなよ。ジャックルだって同じ考えだった。


 じゃあ、オレらの計画にとりかかろう。


 最初の実験はかなり成功だった。オレらはお前を把握した。オレたちはお前が恥ずかしさを感じるかどうか知りたかった。ジャックルはそれができない、つまりその感情はオレだけが感じることができるって意味で、だからこそオレたちは知りたかった。それをお前にするのはかなり残酷なことだってことを、オレは認めなければならない。オレはお前が何故一週間ずっとオレと話したがらなかったのか理解してる。


 ああ、覚えてるに違いないよな。あのことをお前が忘れるはずないって確信してるし。


 一回だけ、お前がオレにあの小さなヒミツを教えてくれたのを覚えているか?お前がいったのは、実はお前がナイトピアンをかなり怖がっているってことだったよな?もちろんお前は誰にも言うなといった。ナイトメアの指揮官ってのは強大なイメージで、怖れるなんてことは…


 お前はオレがみんなにそれを言ったときのことを覚えているか?


 それはオレたちの計画の一部だった。オレを殺そうとした後、もっとも、オレはそれについて今でも謝りたいと思っている。でもオレはまだそのときのお前の顔が頭から離れなくて、言うのは残念だけど、それは面白かったんだ!オレはファーストレベルとセカンドレベルの談話室にはいって、ジャックルと一緒にお前の「小さなヒミツ」についてでかい声でしゃべり始めた。お前は無表情だったが目を大きく見開いた。そして部屋にいたみんなが驚いているお前を見て、すぐにこの美味しい事実について笑い始めた。


 「リアラはナイトピアンが怖いんだぜ!」


 「ハハハ!『ああなんてすばらしい指揮官なんでしょう』と言われるお方が、そんなちいさな愛らしいものを恐れるのか!」


 オレはお前の顔がお前の服とか、帽子みたいに赤くなっていったのを覚えているよ。そのとき、お前は黙ってただ周囲をその大きな瞳で見つめていた。お前の顔は、まるで勇気のイデアみたいに赤くなっていた。お前は恥ずかしそうにうつむいた。


 お前のその態度はオレを驚かせた。オレらはおまえのでかいパンチと怒りの叫び声を予期していた。だがその代わりにオレらが見たのはお前の顔に描かれた「屈辱」の言葉だけだった。それはナイトメアンらしくなかった。オレらはその点については確かだと思った。


 オレはその後お前と話そうとしたことを覚えているよ。すでにお前は普通の状態に戻っていた。オレがお前に触ろうとすると、お前はもうすこしで噛み付くところだった。オレはお前に謝ろうとしたけど、お前は聞かなかった。もちろん、もしもそのとき、オレがお前だったらそうすると思う。オレはお前の瞳が悲しみと激怒に染まっていたのを覚えている。オレは、お前の片方の目に恥じ入るような涙がちらちらしているのに気づいてしまったときのショックを、いまだ覚えている。


 お前泣いてるのか?リー?オレは怖かった。お前が泣いていることで、オレはもう少しで泣きそうになった。お前は傷ついていた、オレはお前のプライドを傷つけた。だが、またお前に対する別の異なった、新しい感情をオレは感じていた。オレたちは同じで、違っていた。


 オレがお前を抱きしめようとすると、お前はただオレの顔を強く殴ってこう言った。「触るな!反逆者」オレはその瞬間からいまだ震えている。


 それはお前がオレを反逆者と呼んだ最初の時だった。皮肉じゃないか?そんな小さいことでお前はオレをそのように呼んだことを想像できるか?今ではその呼び方はいろいろな意味を持つようになってしまったな…


 …


 次の計画は、お前に会い、できれば許してもらうか、哀れみか同情か親切心をオレに感じてもらうことだった。もちろんお前が他の感情を感じることができるって理論は証明した。でも今、お前がオレを愛するようにするためには、まずお前と普通の関係になる必要があった。お前は依然としてオレと会話をしていなかった、まだオレがいったことにひどく怒っていた。


 オレはそれを修復しなければならなかった。


 えー、あのあとオレが学んだことは、お前は極端に腹をたてているということだった。オレがお前と話してないのは関係なかった。でもある意味で、オレはお前がわざとそんな態度をとってるんじゃないかと思った。ひょっとしたら仕返しのつもりなのか?お前に許してもらおうとして、出来る限り全力を出していた間のオレを見ろよ…お前が意地悪そうにニヤリと笑うのが目に浮かぶようだよ…もちろんオレはそれを受けるに値するけど、でもさあ!わざとなんて!


 最終的にお前はオレを許した。多分、お前は、お前に対してばかげた行動をとるオレを見るのに飽きたのか、もしくはかわいそうな兄弟に哀れみでも感じたのか?オレには何故お前がそうしたのか知るすべはない。でも、お前がまたオレに話しかけてきたことは、本当に嬉しかったよ。


 実際、オレはすっごく嬉しかった。


 そして、オレたちの計画は最後のパートに入った。奴のねぐらで、まじめな表情で、ジャックルが言ったことをオレは覚えている。奴が「大人のような、本気のモード」になっていくのは、オレを恐れさせた。奴はオレのために、お前の重要なことを思い出させた。えー、オレが言っていたように、奴はオレが選択すべき次のステップは、オレが、お前と一緒に過ごす時間をたくさんとることである、と言った。


 ケーキの一切れのようだ。


 しかし奴が次に言ったことはオレの心を沈ませた。


 「でも、それはあなたがリアラ様とだけ一緒にいるということです。他の誰でもない」


 オレはこれ以上ない幸せの中でうなずいた。お前と一緒にさまざまなところへ行くという考えがオレの脳内でぐるぐる回っていた。だがそれが全てだった、全ての幸せな気分は消え去り、そのあとやってきた正しい認識がオレを殴り、オレを現実に押し潰した。


 奴は突然オレの気分が変わったのに気づいて、か細い声で言った。「他の誰でもない…わたしですらない」


 「まさかお前本気で言ってんじゃないよな!」


 「必要だ、ナイツ!あなたは彼と愛し合いたいんでしょう、え?あなたは彼だけを想い、彼だけを心の中心におかなければならない!私たちのちっぽけな友情はちょうどその障害になる…」


 「だめだ!だめだ!」オレは絶望した。オレは奴と定期的に話をしなければならなかったから、この付き合いに慣れていた。奴はオレを理解したただ一人の人だった!オレのただ一人の友達だった!(うん、お前だってオレの友達だよ。でも、いずれにせよオレはお前を恋人として見るほうが大きい)オレは奴がオレを好きなのと同じぐらい奴が好きだった。オレらが一緒にトランプをしている間にいったい何が起こった、え?ここまでの時間、奴がオレに従い、支えてきたのは、オレのこんなアホな目標のためだったのか?


 オレは奴の顔が弱弱しく、悲しげになって、子供っぽくなっていったのを覚えている。オレは奴が悲しみを感じれるのを知っていたから、奴が泣くのをこらえているのを見ても驚かなかった。オレたちの別れは奴にも影響していた。


 「あなたは決めなければならない、あなたのリアラ様への想いか、…わたしたちの友情か…」


 「なんでどっちも一緒にできないんだよ!?」


 「なぜならリアラ様は賛成しないからだ!」


 ちくしょう!ちくしょう、お前の偏見があったばかりに!もう気づいたか、奴はお前が主張するようなイかれたヤローじゃなく、良いナイトメアンなんだということに!


 うん、だけど今となってはもう遅すぎるだろ?


 いずれにせよ、今お前はオレが何を選んだのか間違いなく知ってる。そうだ、オレはお前を選んだ、お前ひとりを!あのジャックルのねぐらでした会話は…オレが奴と話した最後の時間だった…オレはそれをすごく後悔してる。


 そして一番皮肉だったのは、オレは望みをまったく成し遂げられなかったということだ。オレが最後のステップに進む前に、数々の事件があって、それはみんなの人生と未来を変えてしまった…


 …


 そして今、今オレはついに何年もオレの内で暖め続けてきたものを全て出せる。オレはここにいて、お前と顔をあわせていて、手にはレッドイデアが、オレたちの主の手から盗んでそんなにたっていないそれが…


 お前はすっげえ怒って、いまにも飛び掛らんばかりって感じに見えるよ。お前の主への想いは、お前のオレへの想いより強い。なんで?なんでオレはお前を強く強く想っているのに、お前は同じように感じないんだ?なんでだ?!オレは何か間違ったことをしたのか?オレは全てをお前のために犠牲にしたのに、なんでお前は同じようにしないんだよ?!


 …


 オレがお前の瞳を見ると、憎しみと激怒で満ちていた。オレは以前は気づかなかった何かに気づいた。


 「ジャックル…オレらは間違ってた」


 …


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 今、金の鉤爪に光が激しく差している。日光はほぼ完全に反射され、地面の小さな赤い水溜りを見ることができた。悪夢の王国の荒地の真ん中で、ひとつの姿がまだ、湿ってやわらかい地面の、ただ数インチだけ上に浮いていた。彼の前に寝ているもうひとつの姿は、完全に手足が動いておらず、死んでいた。


 赤と黒の姿は、依然として動かなかった。彼の目は彼の鉤爪に覆われてかたく閉じられ、純金のような金色は、生命の赤い液体で汚れていた。彼の冷たい青い目から、水が、塩水が、彼の白く表情のない顔をすべり落ちた。彼の片方の手には赤い球があり、彼は彼に出来る限りの力でそれを握りこんでいた。


 彼は振り向いて、自らの血の小さな湖に浸った、その地面に寝ている屍に背を向けた。指揮官は盗まれたものを還すため、彼の主のもとに戻る前に、ちらりと後ろを向き、かつて誰かだったものに向かって最後の一瞥をくれると、行ってしまった。


 「信じられますか、マスター?反逆者はほとんど自分を守ろうとしなかった…」

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